第25巻第7号(第294号)
環境要因関連疾患について
環境要因によっておこる疾患を環境要因関連疾患とよび、具体的には高温環境による熱中症、逆の低温環境による低体温症、マリンスポーツなどで起こりうる減圧症(潜水病、潜函病)、登
山等の高地環境で起こる高山病などがあります。
今回は日本医師会雑誌令和6年5月号からの抜粋で環境要因関連疾患についての話題提供を行います。
最高気温が30度以上になる真夏日が春先から見られるようになり、いわゆる熱中症患者さんは増加しています。日本よりも暑い東南アジアでは、実は熱中症患者さんは日本よりも少ないことが分かっています。これは1つは人種的な体質の違い、1つは熱い時期で野外で活動する習慣がない、暑さを避ける社会的習慣によるものと言われています。
熱中症は大きく2つに分かることができます。
若年者に多い屋外での労働・スポーツ中に起こる労作性熱中症と、高齢者を中心に屋内で起こる非労作性熱中症です。
意外にも高齢者が多い非労作性熱中症の方が、予後が悪くなっています。
なお、暑さの目安は気温だけではなく、気温・湿度・日射(輻射)の3つが関係しており、これらを組み合わせて暑さ指数(WBGT)と言われています。この指数が31以上になると、原則として運動は中止となります。因みにWBGT31は気温では35度相当です。
なお熱中症については意識障害の有無が大切で、意識障害がないときはⅠ度熱中症として現場での水分補給、冷却などでの対応が可能ですが、意識障害があるⅡ度では基本的には医療機関の受診が必要になります。
なおマスクが熱中症のリスクを高めるという科学的根拠は確立していませんので、暑い場所でのマスクの使用は個別対応が必要となります。
熱中症とは逆の低体温症とは、深部体温が35℃未満になることと定義されています。
なお熱中症同様に低体温症についても、65歳以上の高齢者が多く屋外よりも屋内での発生が多くなっています。脳の血流低下に伴い健忘、運動失調が出現して最終的には昏睡になります。また心拍数、血圧は低下します。
なお、深部体温が30℃未満になると心停止となります。低体温症の方の対応で気を付けることは、外的刺激で心房細動など致死的な不整脈を誘発するために、体動ならびに体位変換などの患者さんの搬送時には特に注意が必要です。治療は復温です。深部体温が30℃未満の時には昇圧剤や電気ショックに反応しないこともありますが、3回以上の電気ショックは電気ショックによる心筋障害を考慮して、30度以上になるまでは電気ショックを行わないことになっています。
なおダイビングなどのレジャースポーツにおける減圧症も時々ある疾患です。これは体内に溶解した不活性ガス(空気中の窒素など)が減圧時(海底から上がるとき)に気泡化して起こるもので、治療以上に予防が大切です。
不必要に深い深度に長時間の滞在、急浮上など減圧スケジュールが守れないときにおこるものです。多くの場合は24時間以内に発現します。(半数以上は潜水終了後3時間以内で発生)。最も多い症状としては、Ⅰ型減圧症と言われるもので、四肢の関節の痛みあるいは皮疹の発現のみの例ですが、重症型であるⅡ度減圧症は麻痺、しびれ、めまい、呼吸困難等の症状が出ます。治療は酸素投与、点滴、再加圧となります。なお、潜水後の航空機搭乗は12時間以上あけることが必要となります。
最後は高山病についてですが、高地環境への暴露が引き起こす疾患を急性高山病と呼び、重症になると高地肺水腫、高地脳浮腫をきたすこともあります。
日本においては富士山や日本アルプスの地域に限られますが、例えば高度の地域のネパールやヒマラヤ地域、南米アンデスなどの山岳地帯への訪問も可能性があります。
急性高山病は標高2500m以上の高地環境に暴露された際に生体に生じる比較的軽症の病態です。
症状としては頭痛、頭重感は必発であり、ふらつき・めまいを伴うことが多くなっています。身体的に体重が重い人、高山病になったことがある人、運動習慣がない人、喫煙をする人などは発症の危険因子となりまた睡眠薬の使用ならびに飲酒も誘因となります。
最も有効な予防方法はゆっくりとした登行であり、標高2500m以上では500m以下/日の宿泊高度上昇が推奨されています。予防薬としてはダイアモックス、デカドロンなどが使用されます。(保険適応外ですが)
この時期になると熱中症が話題になりますが、環境関連疾患にはいろいろなものがあります。わからないことがありましたらまたかかりつけ医師に相談をしましょう。
山田医院 医師 山田良宏
応急手当について
まもなく夏休みシーズン。海や山へ出かける人も多いと思います。
そこで今回は、アウトドアで活動中に、ケガや体調不良になった時の応急処置について調べてみました。
蚊に刺された時
流水で洗い流して清潔にします。
刺されたところを冷やします。痒み止め軟膏を塗ります。かゆみが強く赤みや腫れなど炎症がみられる時は、ステロイド外用薬も有効です。
掻き壊してしまうと、化膿したりとびひになったりと、治りが遅くなることがあります。
有毒生物にかまれた時
野山で、ブヨ、アブ、ハチなどに刺されると、やがて患部が腫れて激しく傷みます。
毒が回る前にやるべきことは、患部の周囲をぎゅーっとつねって毒を絞り出しながら流水で洗い流すことです。痒くても決してかきむしらず、かゆみ止め薬で抑えましょう。
発疹、息苦しさ、めまい、など全身症状が現れた場合は、ただちに救急車を要請しましょう。
切り傷やすり傷に伴う出血の時
まずは、傷口を清潔にすること、水道水で洗う、水道がなければペットボトルの水でもよいです。
傷口に土や砂が付いていると化膿の原因になるので、まずは汚れをよく流水で洗うことです。切り傷は、洗浄後、清潔なハンカチやタオルを傷口に当て、出血が止まるまで真上からしっかり止血することです。
手足の傷は、心臓より高い位置に上げると出血量を抑えられます。出血がひどい場合は、傷口より心臓に近い動脈を強く圧迫します。
縫合が必要な場合は、止血後に病院受診しましょう。すり傷の場合も、まずは傷口を洗い流してきれいにすることが重要です。
最近では、キズは乾かさずに治したほうが早くきれいに治ると言われています。
浸出液を閉じ込めて皮膚を再生させる被覆材(ハイドロロコイド素材)の絆創膏が主流だそうです。
打撲や捻挫の時
特に多いのが手首や足首をひねるケースです。放っておくと痛みや腫れが増すので応急手当が必要になります。
基本は、【安静、冷却、圧迫と固定、挙上】です。患部をなるべく動かさない姿勢をとり、氷嚢や保冷剤で冷やす。
そして包帯などで圧迫しながら固定し、高い位置に保つとよいでしょう。包帯がなければ、身近にある傘、ダンボール、雑誌などを添え木とし、ひもや手ぬぐいで巻いて固定しましょう。
くらげに刺された時
真水ではなく海水で患部を洗い流す事、患部に素手で触らない事も覚えておきたいです。
海の生物にとって真水は刺激物、刺激を与えると活性化してさらにひどくなる事があります。
楽しい夏休み、応急手当、心得ておくと安心ですね。
山田医院 看護師 橘 智子
水分の補給について
梅雨が明け本格的な夏がやってくる季節となりました。
熱中症対策でこまめな水分補給が呼びかけられています。
私は昨年のこの時期の明け方に両足がこむら返りになるというとても痛い体験をしました。梅雨時の家時間に家事を頑張りすぎ、大量の汗と疲労で、就寝前の水分補給を忘れてしまったのが原因でした。こまめな水分補給が日々の体調管理に大切なことなのだと痛感し、水分のことについて調べてみました。
体の中にはたくさんの水分があり、水分量は年齢によって違います。
幼児でおよそ80%、成人男性で60%、成人女性で55%、高齢者では50%ほどです。
体内の水分量は、摂取と排泄により一定に調節され、このバランスが崩れると体の不調をきたします。体内の水分量の5%を失うと脱水症状や熱中症の症状が現れ、10%を失うと循環不全が起こり、20%が失われると人は死に至ります。
のどの渇きは、1%程度の水分が失われると感じるようになり、既に「脱水」と同じ状態になっているといわれています。
体内の水分は「体液」と呼ばれ、水と電解質(塩分など)でできています。
①体温調節
②体に必要な栄養素や酸素を運び込む
③体に不要な老廃物を運び出す
と大切な役割を担っています。子どもと高齢者には特に要注意です。
子ども
1.成長期は水分を多く必要とし、水分の出入りが激しい
2.体重当たりの不感蒸泄(皮膚や呼吸から失われる水分)が大人と比べて多い
3.汗をかく機能や腎臓の機能が未熟である
高齢者
1. 体液をためるタンク(筋肉)が少ない
2.飲んだり食べたりする量が減っている
3.のどの渇きや暑さに気がつきにくくなる
小さなお子さんのお母様も自分のことは後回しにしがちなので気を付けてください。
定期的な水分摂取のタイミング
起床時、朝食、ちょっと一息、昼食、おやつ(ティータイム)、夕食、就寝前、と7回コップ一杯の水分をとりましょう。
夏野菜、果物、ゼリー類、スープと規則正しい食事が大切です。
私は麦茶にたより水をあまり飲まなかったのですが、レモンやミントを添えたり、梅酢を少し入れると後味さっぱりで飲みやすく感じました。
其々の体調にあわせ、適度な汗をかいて、こまめな水分補給で暑い夏を乗り切りましょう。
山田医院 医療事務 東 久子
思春期早発症
思春期とは子供が成長して大人になっていく過程で、心身ともに変化する時期のことです。
知的や人格的な成長と身体的な成長、著しい身長の伸びを認め、思春期が始まることで性差がはっきりしてきます。思春期は通常女児は10歳頃、男児は12歳頃から始まります。この思春期が何らかの原因で2~3年早く始まってしまう疾患を「思春期早発症」と言います。
思春期はちょうどよい年齢頃になると脳の視床下部という場所からゴナドトロピン放出ホルモンというホルモンが放出されるようになります。
ゴナドトロピン放出ホルモンは視床下部の近くにある下垂体という場所を刺激して、下垂体からゴナドトロピン(黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモンの2つのホルモンを総称してゴナドトロピンと言います)というホルモンを分泌させます。
このゴナドトロピンが女児では卵巣にはたらいて女性ホルモン(エストロゲン)を分泌させ、男児では精巣にはたらいて男性ホルモン(テストステロン)を分泌させます。この性ホルモンは各生殖器に働いて性的な成熟を促進したり、骨にはたらいて身長を伸ばし、成人のしっかりした骨に成熟させます。
思春期早発症の主な症状は女児では
①7歳6か月までに乳房がふくらみ始める。
②8歳までに陰毛、わき毛が生える。
③10歳6か月までに生理が始まる。
男児では
①9歳までに精巣(睾丸)が発育する。
②10歳までに陰毛が生える。
③11歳までにわき毛、ひげがはえたり、声変りがみられる。
これらの症状が2つ以上存在する、あるいは早期の思春期徴候が1つの場合でも年齢不相応な身長の著明な伸び、あるいは骨成熟の明らかな進行などにより診断されます。
思春期早発症で問題になるのは
①低年齢で急速に体が完成(成熟)してしまうために、一時的には身長が伸びたとしてもそれ以上に成長することが出来ず、大人になった時には低身長となってしまいます。
②同級生たちと比べて体つきが大人っぽくなったり、毛が生えたりするので着替えや入浴の時など羞恥心を感じたり、女児の場合は周囲より月経が早く来るため本人の戸惑いや周囲からの嫌がらせなどの心理社会的問題が起きることがあります。また男児では精通、女児では初経が来れば理論上は妊娠が可能となり意図しない妊娠の危険性も考えられます。
③まれにですが脳などに思春期を進めてしまう原因になる病変が見つかることもあります。
原因として最も多いのは脳から精巣・卵巣に命令を送る視床下部、下垂体という場所が早くに活動を始めてしまう中枢性思春期早発症です。
そのうち頭のMRI などの詳しい検査でもどこにも異常が見つからない、(体質的な)特発性思春期早発病が多く、中枢性思春期早発症では下垂体からの精巣・卵巣を刺激する黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモン分泌亢進に加え、男児ではテストステロン(男性ホルモン)、女児ではエストロゲン(女性ホルモン)分泌亢進が認められます。まれに別の病気(脳腫瘍など腫瘍性疾患や卵巣機能異常など)が原因で思春期が早まることもあるため放置せず病院で相談されることをお勧めします。
思春期早発症の検査は思春期の進行の程度の確認として身長、体重の成長曲線の確認、視診、血液検査(ゴナドトロピンや性ホルモン、成長ホルモンの値)、手の骨のレントゲンで骨の年齢を測定する(思春期早発症では実年齢より骨の年齢が上回っていることが多い)などが行われ、場合によっては頭部MRI、腹部超音波、腫瘍マーカーなど精密検査を行うこともあります。治療はよく見られる特発性中枢性早発症ではLH-RHアナログという薬を月に1回病院で皮下注射します。
この治療により思春期の進行をゆっくりにすることが出来ます。
その結果低身長を防ぎ、年齢不相応な月経などの思春期徴候を抑えることができ本人や家族の心理社会的問題を防ぎます。具体的に治療の対象となるのか、治療効果の見通しなどは主治医の先生とよく相談することが大切です。脳腫瘍などの原因が存在する場合にはその原因に対する治療を優先します。
最近の子供は私が子供のころより大きい子が多いように思いますが、同年齢の子供に比べ心身共に成長が早いかな?と思われる場合はかかりつけ医に相談されるといいですね。
山田医院 看護師 中島早苗
アニサキスについて
アニサキスは、成虫は海豚、鯨、海豹、鯔などの海洋に生息する哺乳類の胃に寄生する長さ20-30mm、幅0.5-1mmの線虫です。
海洋性哺乳類から排泄された成虫の卵は海水中で幼虫となり、おきあみに食べられ、その後、海産性のあらゆる魚や烏賊に保有されたまま、海洋性哺乳類に食べられ、食物連鎖が形成されます。
症状は、アニサキスの多くは魚介類の内臓に寄生しています。
このアニサキスが寄生した魚介類を、生または生に近い状態で食べると、アニサキスが胃や腸の壁に突き刺さることがあり、その多くが食後数時間から十数時間以内に激しい腹痛、悪心、嘔吐を起こします。
アニサキスには蛋白質のアレルゲンをもつものがあり、蕁麻疹などアレルギー症状を起こすこともあります。原因となった海産性魚類は、鯖が最も多いですが、鯵、鰯、カタクチイワシ、メジマグロ、鮭、鰹など多種類の魚です。
アニサキスの保有状況は同じ魚類であっても季節や生息海域または、個体差によく大きく異なります。
予防は、アニサキスを取り除くことにつきます。魚介類の内臓から筋肉にアニサキスが移行することから早めに内臓を取り除き、冷凍保存することです。
アニサキスは、熱に弱く、60℃、1分以上で死滅します。低温には強く、-3度で1週間以上生きているので注意が必要です。
しかし、中心部まで-20℃で24時間以上冷凍すると死滅させることができます。
酢でしめても塩をふっても、山葵をつけても死なないので、魚介類の生食の際はよく見て気をつけましょう。今回は食中毒の知識から抜粋しました。
山田医院医療事務 阿知波真弓
マイコプラズマ肺炎について
今年の春過ぎから発熱/咳嗽で受診する子どもを中心に若者が多くなっています。
ややピークが過ぎたものの、現在も多く流行しているのがマイコプラズマ肺炎です。
新聞を中心としたマスコミでは手足口病の流行をよく取り上げていますが、臨床的にはマイコプラズマの方が問題となっています。
マイコプラズマ肺炎は以前は異型肺炎と言われていて、オリンピックイヤーに流行することからオリンピック肺炎とも呼ばれていたようです。
マイコプラズマ肺炎は基本的には幼児期から青年期までが中心でピークは7-8歳となっています。感染様式は飛沫あるいは接触感染ですが、感染力は強くなく濃厚接触が必要です。教室での短時間での接触では感染拡大の可能性は低く、友人間での濃厚接触が重要となります。
発症数日前から菌は排泄、発症発現時にピークとなりこのレベルは1週間ほど続きます。
潜伏期間は2週間程度で発熱、倦怠感、頭部痛で発症することが多く、咳嗽は2-3日してから出現することが多く、始めは痰の絡みが少ない乾性咳嗽ですがしばらくすると痰が絡む湿性咳嗽になります。喘鳴を認めることもあります。
合併症としては中耳炎、心筋炎、ギランバレー症候群が有名です。聴診器では分からないことも多く、レントゲン写真が必要です。
治療はペニシリン、セフェム系の抗生物質は効果がなく、基本的にはマクロライド系の抗生剤を使用しますが、耐性菌も多くなっていて8歳以上であればミノマイシンを使用、あるいはオゼックス等のニューキノロン系抗生物質を使用します。
当院でも5月以降増えてきており、7月になり多いときでは1日に10名近くの診断をしています。最近はCOVID-19の流行もあり鑑別がやや困難なこともあります。
山田医院 医師 山田良宏