第25巻第5号(第292号)
老衰の臨床について
老衰とは明確な定義はないが加齢による身体機能の低下をきたした状態と考えられています。詳細には身体機能のみならず内臓機能、代謝機能の低下も伴い結果として意識レベルの低下も
生じつつある状態と考えられています。具体的には身体機能の低下(歩くことができなくなり寝たきりになる)、食事量の減少、体重の減少、精神活動の低下(眠っていることが増える)
が主な症状と考えられます。臨床的に老衰と判断する根拠としては「継続的な治療を行っていること」「年齢的な目安はないがADLや経口摂取量の低下が緩徐であること」「他に致死的な
病気の診断がついていない事」となっています。そのために薬の副作用がないか、血液検査で病気の原因となる異常がないか、レントゲンで病気の下人となるものがないかなどの確認が必
要になります。このことから老衰の診断は継続的な診療の下で観察された結果として下されたものであるという事になります。加齢に伴う筋肉量が減少するサルコペニアが進行したフレイ
ルでは栄養や運動の介入を行うことによって改善することが分かっていますがこのサルコペニアがされに進行した状態が老衰で回復困難な状態と考えられています。老衰という診断は日本
では突出した診断名で死因の第3位で全死亡の11%を占めています。女王エリザベス2世の死因が高齢=老衰とされた英国でも1.7%程度であり米国では0.2%となっています。病理学的に
は老衰死というものはなく何らかの死因があると考えられます。病理解剖等をすればうっ血性心不全、アテローム動脈硬化症などの病変がありそれに伴う異常が原因のものがあると推定さ
れますが臨床的には特に在宅医療においては最初に記載したように経過において加齢以外に明らかな疾患がなく次第に弱って亡くなった場合には老衰という診断が死亡診断書に記載されま
す。当院においても高齢者の在宅医療を行っており年間に10名以上の方の看取りをしていますが癌の次に多いのが老衰となっています。さて、老衰の時の栄養についてはどのように考えれ
ばよいでしょうか。病院においては老衰の診断がついた場合でも栄養介入を行うことはよくあります。最近は胃瘻については拒否をされる方も多くなっていますが経鼻経管栄養を希望され
る場合あるいは点滴での栄養投与を希望される場合はよくあります。一般の教科書においては推奨栄養は1日に1000-1200kCalですがこの栄養量については1919年に発表された論文を基に
算定されている基準で寝たきり高齢者が対象ではないために実際の臨床現場では1日に400kCal+水分500ml程度で数か月間は生活が可能であることを多々経験します。実際の在宅医
療の現場では老衰で食事が摂れなくなった時の対応としては①誤嚥性肺炎のリスクも説明しながら最低限の食べ物(とろみをつけたものなど)を食べてもらう②経管栄養は希望がなければ
しない(希望があれば経鼻経管栄養を行う。)③希望に応じて末梢点滴(場合によっては皮下輸液)500ml程度を行う④苦痛は緩和する というような対応を行います。点滴を希望す
る介護者が多数いますが患者さんを診ていると本人が希望しない場合には点滴は脱水の場合には多少倦怠感等は改善しますが脱水がない場合には自覚症状の改善はないために私は個人的に
は不要であると考えています。また過剰の点滴を行うことで体内特に肺に水がたまるために喀痰量が増加して呼吸困難を悪化する可能性も高くなるデメリットが多くなります。介護者ある
いは医療者にとっては何かしないといけないという焦りからつい点滴を希望するようです。老衰期のリハビリについては必要に応じて摂食嚥下リハビリテーションからスタートすることが
多いようです。発語、口を閉じる練習、化膿ならば嚥下、端座位となる練習を行うこともあります。これが意欲的にできる場合には食事ができるように成るパターンもあります。家族の多
くは自然な形ででの最後を希望されることが多いのですが、このような場合の終末期は誤嚥性肺炎がきっかけで亡くなることが少なくありません。高齢者の食べたい一番人気はウナギでそ
の次はマグロの刺身となっています。ウナギは柔らかく、それほどの咀嚼は不要、マグロの刺身も漬けにして少量ずつであれば比較的柔らかい食べ物となります。多少嚥下機能が低下して
いる高齢者でも問題なく摂食可能なことがあります。嚥下機能の低下があればすぐに経口摂取を中止ではなく誤嚥性肺炎のリスクを考えながらも好きなものを少量でもよいから口から摂り
場合によっては誤嚥性肺炎で最期を迎えるリスクがありますが本人の希望に合わせて対応することも必要な時代になってきたように感じます。今回は日本醫亊新報令和6年4月第4週号から
抜粋をしました。
山田医院 医師 山田良宏
熱中症について
5月に入り、寒暖の差が激しくなり、上着が必要な日もあったり、少し動くだけで汗ばむ日もあったり、日々の気温の変化にお疲れの方も多いと思います。意外なことですが、夏の始まりのこの時期は熱中症になりやすいのです。体が気温の高さに慣れておらず、発汗量が十分でないため、真夏日でなくとも熱中症を引き起こす可能性が高くなるのです。意識して、水分補給、空調の管理をすることが大切です。
熱中症は、高温多湿な環境に長時間いることにより、体で産生された熱がうまく放出されずに、体内に熱がこもり、様々な症状が出る疾患のことを言います。特に乳幼児や高齢者は引き起こす要因があるので注意が必要です。乳幼児は、大人より新陳代謝が活発で体温が高く、また汗腺の発達が未熟なため、体温のコントロールがうまくできずに熱中症を引き起こしやすいです。また、高齢者は、体内の水分割合が減っていることや、のどの渇きを感じにくいこともあり、熱中症を引き起こしやすくなります。加えて、心機能や腎機能が低下している場合には重症化しやすいことも特徴です。
熱中症の症状
初期症状:立ちくらみ、めまい、足がつる…体温が下がると、体の表面を流れる血液の量が増えて、一時的に血液が足りなくなります。その為、血圧が下がり、脳に十分な血液が送られずに、立ちくらみやめまいが起きます。
中等度の症状:嘔吐、だるさ、体のけいれん…汗をかいて、体内の水分が失われ、脱水状態を起こしているために起こります。発汗で体内の塩分が失われ、ナトリウム、カリウムの不足により、手足のつり、筋肉のけいれんが起こります。
※中等度の症状が起きたら、ただちに病院への搬送が必要です、救急車を呼んで下さい。
重症:意識障害、高体温…体温が上がることで脳に影響が及び、意識障害をきたします。
その他にも、唇がしびれる、大量の汗をかく、顔のほてり、呼吸が難しい、過呼吸、熱がこもっている感じがする、なども初期症状の一部です。もし、熱中症の症状を感じたり、一緒にいる人が発症したら、「大したことはないだろう」と放っておかずに、すぐに対応する必要があります。まずは意識があるか確認し、意識障害が生じているようであれば、救急車を呼びます。 移動できるときは、クーラーが効いてる場所や日陰などへ移動します。次にアイスノンを当てます、血管の集中している、わきの下、首、太ももの付け根(そけい部)、膝の裏などが効果的です。飲めるようなら、水分、できれば塩分の入っているスポーツドリンクを摂取します。口から飲むことができない場合は、医療機関で点滴などの処置が必要となります。
予防ですが、こまめな水分補給、空調の管理は言うまでもありません。季節の変わり目は、熱中症だけでなく体調を崩しやすい時期でもあります。食事には水分、塩分が思っているより含まれおり、朝ご飯を抜くと、脱水、塩分不足で熱中症にかかりやすいとも言われています。まずは、体力づくり、十分な睡眠、栄養が一番の対策です。
山田医院 看護師 盛田里穂
高齢者の予防接種
私事ですが、うちの主人が去年65歳になりました。
すると有難いことに「肺炎球菌のワクチン」「前立腺がんの検査」のお知らせが届き
どちらも山田医院でお世話になりました。
そして最近またRSウイルスのワクチンが出来ましたね。
RSウイルスは身近に存在し2歳までには一度は罹るとされています。咳やくしゃみなどの飛沫を吸い込んだりウイルスのついた手で鼻や口を触ったりして感染します。
多くの人は軽い風邪症状で済みますが、高齢者は重症化に注意が必要です。
国内では2022年ウイルスなどの肺炎での死亡者の97.8%が65歳以上の高齢者が占めていたそうです。高齢者に注意が必要な呼吸器感染症、ワクチンが有効な病気として肺炎球菌、RSウイルス、インフルエンザなどです。これらの病気にかかり入院が長引き安静が続くと、回復しても寝たきりになったり、食事や着替えなど日常生活で介助が必要になったりの懸念が高まります。
高齢者の接種スケジュールとして、RSウイルスは60歳以上1回。肺炎球菌は65歳の年度に1回、インフルエンザ、RSウイルスは年に1回です。
新たなワクチンは60歳以上が対象で(あ、私も対象ですね)自費で受ける任意接種扱いです。臨床試験では接種した人の発症を8割減らす効果が確認できたそうです。
自費で約25000円ほど、帯状疱疹のワクチンと同じくらいですよね。帯状疱疹は2回受けるのでこの倍かかりますが、、。帯状疱疹ワクチンも国からの補助がいつの日か出るのではと淡い期待を持ち待ち続けましたが、なかなかそうはならないし、最近私より若い友達が帯状疱疹になり大変な目にあっていたので、そろそろ諦めて接種しようかと思っています。
肺炎を招くウイルスや細菌はほかにもあります。新型コロナウイルスは3月末で無料接種が終了。4月からは定期接種になりました。インフルエンザと同じ扱いで、年に1回65歳以上の高齢者や60~64歳の心臓などに持病がある人が補助の対象となります。
肺炎球菌の定期接種は60~64歳で心臓などに持病がある人か65歳の人のいずれかで、生涯で1回補助が認められているので該当者の皆様忘れずに接種してくださいね。
とうとう主人が仕事を辞めこれからは年金暮らし。こんな有難い制度を存分に使わせていただき元気な老後を穏やかに過ごしたいものです。夫婦げんかもほどほどにして、、、。
最近ようやくコロナもインフルエンザも少なくなってきて山田医院も穏やかな日々が続いています。診察終了間際は混雑していることが多いので早めの来院お願いしますね(^^)/
山田医院 看護師 冨嶋友子
40歳以上の方へ〜 年に一度の健康診断受けていますか?
日本では国民全員が必ず何らかの公的医療保険に加入しています。それぞれの保険者から40歳以上の方に対して健診の案内がご自宅に届いているかと思います。この検診はメタボリックシンドロームに着目した健診で、近年増えている糖尿病や高血圧症などの生活習慣病の発症や重症化を予防するために行います。
*メタボリックシンドロームとは内臓脂肪型肥満の方が軽症でも①高血圧、②脂質異常症、③高血糖などの危険因子を2つ以上持っている状態を言います。メタボリックシンドロームの状態になると動脈硬化が進み、心臓病や脳卒中などの重大な病気や糖尿病性腎症などの合併症に繋がりやすくなります。
□基本的な健診内容
問診・身体計測・診察・血圧測定・血液検査・尿検査
医師が必要と認めた方はさらに、貧血検査・心電図検査等を行います。
その後、健診結果次第では・・・
生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣の改善による生活習慣病の予防効果が多く期待できる方に対して保健師、管理栄養士などが生活習慣を見直すサポートをします。
検診は無料もしくは少しの負担額で受診することができます。年に一度は健康診断を受けて目には見えない体内のチェックをぜひ習慣づけましょう!
〜山田医院でも検診を受けることができます〜
・当院では前もってのご予約は承っておりません。当日お越しいただければ受診できますので体調の良い日にお越しください。ですが、診察の混み状況によってはお待たせすることがありますのでご了承ください。なお、健診には問診記入などの準備、また健診自体にも時間を要しますので、受付終了間際よりも少し早めの受付をお願いいたします。
・保険証と保険者から届いた受診券を必ずお持ちください。国民健康保険の方は問診表(A3サイズ)が入っていますのでご記入の上ご持参ください。また当日1〜2枚問診票を書いていただきます。前もってお渡しすることもできますのでお声掛けください。
・検診前10時間はお食事を抜いてください。お水は飲んでも大丈夫です。糖尿薬などは血液検査結果に影響しますので当日は控えてください。心臓や血圧など大事なお薬は服用してください。
・服装はどんなものでも構いませんが、検査の時足先を出していただくことになりますので、脱ぎ履きしやすい靴下が便利かと思われます。
他、健康診断について不明な点がございましたら、お気軽に看護師、事務スタッフまでお声掛けください。
山田医院医療事務 東川敏
小児の心身症について
心身症とは身体症状を呈する疾患のうちその発症と経過に心理社会的因子が密接に関わるものです。疾患は多かれ少なかれ心理的な因子が絡むことがありますが特に心理社会的因子の影響が強く症状が持続あるいは繰り返すことによって生活に大きな支障が生じているものが心身症であると考えられます。子どもには心身症が多いと言われていてまた様々な不定愁訴を複合的に呈しやすくなっています。子どもに多いものとしては起立性調節障害、緊張型頭痛、過敏性腸症候群などがあります。身体症状は身体的な問題+心の影響として心理社会因子(家庭環境、子どもの特性など)と症状の持続に伴う不安(また調子が悪くならないかなどの不安な気持ち)がありますが特に症状の持続に伴う不安への配慮が大切になります。心身症治療のポイントとしては症状に対しての心の影響をコントロールする事です。まず症状の対する心の影響について理解をしてその上で症状に的確に対応することで心の影響を軽減して状態を改善させることになります。基本的には生活習慣の見直しが大切です。生活リズムを整える。(睡眠時間の確保、朝はきっちりと目覚めるなど)食事をきっちりととる。(最低2食は摂り、水分もきっちりと摂る)、適度の運動などが大切です。なお、症状が改善しない、症状へのとらわれが強い,登校状況が3か月改善しないなどがあれば専門医療機関への受診が必要になります。今回は日本醫亊新報令和6年5月2週号から抜粋をしました。
山田医院 医師 山田良宏