第27巻第8号(第319号)
免疫チェックポイント阻害剤について
従来の抗がん剤は直接がんを認識して薬自体ががんに触れて殺傷するもの、従来の分子標的治療薬はがんの増殖のシグナルを抑える (弱める) 薬であったのに対して免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) は我々の身体の免疫系、特にリンパ球を活性化してがんを攻撃するという作用機序が今までとは全く異なる薬剤です。
ICIは2014年に日本では初めて承認されてから10年以上が経過していますが現時点では3種類、計9薬剤があります。
このICIはリンパ球のT細胞上の免疫チェックポイント分子を抗体によって遮断して癌抗原特異的T細胞の抑制を解除する事で抗腫瘍免疫を再活性化する治療薬です。
なおこの免疫チェックポイントとは本来は活性化されたT細胞の表面に発現する分子で自己免疫や過剰な炎症を防ぐという重要な役割をはたすT細胞のブレーキとして機能しています。
がん細胞は自らが生き残るためにこの免疫チェックポイント機構を乗っ取ることで勝手にT細胞にブレーキをかけてT細胞に殺されるのを回避しています。
このがん細胞に乗っ取られた免疫チェックポイント機構を取り戻すことで抗腫瘍効果を発現するのがICIの作用機序です。
現在では約半数の悪性腫瘍がICIの適応とみなされています。
皮膚がん、肺癌、消化器癌、胆管癌、肝臓癌、腎臓、子宮、乳癌など多くの疾患に使用されています。
このICIは抗がん剤と違い長期投与もありうる薬剤でまた中止後も奏功が持続することがある薬剤です。
またICIは手術後、化学療法後などの2次治療として登場しましたが現在では初めから投与する1次治療、の再発時の3次治療としても投与されます。
また抗がん剤との併用、ICI同士の併用も行われるようになりました。
ICIの使用によりがん細胞以外の自己抗原に作用するT細胞も活性化されてしまうために抗腫瘍効果とは別個の副作用が起こることがあります。これは免疫関連有害事象(irAE) と呼ばれています。
irAEは従来のがん治療に伴って出現する有害事象とは異なり
①出現時期の予測が困難 (ICI投与後すぐの出現も投与終了後1年ほどしてから出現することもあります。)
②初発症状が非特異的(発熱、倦怠感のみなど)
③複数臓器に同時または異時多発する
④irAEが出現するほどICIの効果がある
などの特徴があります。
大部分のirAEの経過は急性期の炎症を制御することで乗り切ることは可能ですが一部は長期にわたり管理が必要になるものもあります。
このirAEを早期発見して早期治療を行い最優先事項である本来のがん治療へ可及的早期の復活を図ることが大切です。
対応としては
①症状出現から受診までの遅れ:
ICI治療中の患者さんはこれくらいの症状では次の外来まで様子を見ようと我慢をすることもあります。 情報の共有で症状出現時の早期受診が大切です。
②診断治療の遅れ:
医療機関においてはがん治療中であれば1年以内にICI治療が行われていたならばirAEの可能性を想起しての対応が必要になります。
主訴の最多は倦怠感、発熱であり症状が非特異的であるために見逃されることもよくあります。
最低限見逃してはいけない5病型として
①急性1型糖尿病
②下垂体炎
③肺臓炎
④サイトカイン放出症候群
⑤筋毒性(心筋炎、重症筋無力症など)
があります。
このサイトカイン放出症候群としての注意点しては感染症を合併しているときにICIを投与すると一過性にこのサイトカイン放出症候群をおこすことがあることです。
がん治療の進歩に伴い免疫治療も進歩しています。
免疫療法の1つである免疫チェックポイント阻害剤は発売から10年以上の経過となり幅広く使用されるようになりました。
特異的な作用(自己免疫疾患用の症状)があり、副作用はどのような症状も起こりうる一方で発症頻度はさほど高くないことが特徴です。
発熱、倦怠感等での発症も多く悪性腫瘍そのものによる症状か、併用する抗がん剤による症状かとの区別もつきにくく対応には注意が必要です。
このICIを服用している方は体調不良等があり医療機関を受診する際には現在の服薬内容のみならず1年以内にICIを服用しているならばそれについても申告が必要です。
今回は日本医師会雑誌令和8年8月号から抜粋をしました。
山田医院 医師 山田良宏
嚥下障害について
こんにちは。 暑い暑いと言っても涼しくなりませんが、暑いね、が挨拶の言葉になりつつある日本列島。
今年は北海道でもエアコンを購入する人が多いとテレビで言ってました。
熊本の被災された方たちも作業が大変でしょう。
ボランティアにたくさんの方が熊本にいっておられるのもニュースで見て、被災地の方たちが助かっているとの話や、有名人の方たちが多額の寄付 (私の推しのミセスも早々に寄付されてました)をされているのを見て、日本は素敵だなあと、微力ながら私も募金 (寄付といえる額ではない)を、、。
私は暑さには強く、炎天下でもテニスするし、寝室はエアコン入れずに寝たほうが、朝の目覚めがすっきりしていたのですが、今年は朝起きたら汗だくの日があったり、久々に夜間足がつったりで、とうとうエアコンのお世話になる日が増えています。
母は96歳、施設で一年中温度管理がされていて暑さ寒さ知らずです。 入所前は冬になるとひと月程風邪ひいて寝込んでいましたが、入所後はコロナに一度り患した以外は風邪ひとつ引きません。
その母が80歳台の時回転すしが好きでよく一緒に行ってましたが、よくむせ込んでひどいときは、吐いてしまい、姉と私はいつもひやひやでした。 ゆっくり食べて、と言っても食べるのが早くてむせ込むのも早い、、、。(笑) 私も食べるのが非常に速いので気を付けなくては、、、。
先日新聞に嚥下障害について書いてありました。
飲み込む機能が低下し、食べ物や飲み物がうまく飲み込めなくなる嚥下障害。
むせたり、誤って気管に入ってしまう「誤嚥」を起こすことがあります。
高齢になれば仕方ないと放置しがちですが誤嚥性肺炎や低栄養、虚弱(フレイル) など全身に深刻な悪影響を及ぼす恐れがあるので原因をはっきりさせて適切な食事や訓練、治療法を選ぶことが大切になります。
「最近良くむせる」
「水やお茶でむせる」
「食事に時間がかかるようになった」
「食後に声が濁る」
などの変化はありませんか?
「年齢のせい?」と思っているちょっとした変化が嚥下機能の低下のサインかもしれません。
気になる症状がある場合は早めに医療機関にご相談下さい。
また、誤嚥しても咳やむせが出ない不顕性誤嚥もあります。 「むせないから大丈夫」とは限りません。
では嚥下障害を予防するにはどうすれば良いのでしょうか。
まずは食事を急がず一口ずつよく噛んでゆっくり飲み込むこと。
食事の際は姿勢を正し、会話に夢中になって次の一口を急いだりせず、一口ずつしっかり飲み込むことも大切です。 これは自分自身にも言い聞かせたいと思います(笑)
予防として「パタカラ」 体操があります。
「パ・タ・か・ラ」と声に出すことで、唇や舌など、食べるために必要な口の動きを鍛えます。
●大きく口を開ける
●舌を前後左右に動かす
●首や肩をゆっくり動かす
など無理のない範囲でできる体操もあるのでテレビ見ながらしてくださいね。
また歯磨きや入れ歯のお手入れなどの口腔ケアも大切です。
口の中を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎の予防につながります。 「最近ちょっと飲み込みにくいな」と感じたら年齢のせいと決めつけず早めに相談してみてください。
さぁ、これが発行されるのは8月20日。 暑さはまだまだ続いているのでしょうね。 医院でも「こんにちは」 「暑いですね〜」ってご挨拶してしまうかもですがもうしばらくよろしくお願いします。
暑い夏一緒に乗り越えましょうね(¯^¯)/
山田医院 看護師 冨嶋友子
糖尿病合併症について
糖尿病の三大合併症とは、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症の3つを指します。
糖尿病の合併症は高血糖が続くことで全身の血管や神経が傷つくことで発症し、神経、目、腎臓の順に現れやすい特徴があります。
神経障害は、高血糖により神経へ栄養や酸素を送る細い血管が傷つき、代謝異常や血流不足が起きることで、足先や足裏のしびれ、ピリピリとした痛み、感覚が鈍くなるなど、感覚神経や自律神経、筋力の低下などの運動神経に障害をもたらすものです。
感覚神経障害の症状は、主に足の先から現れます。 足の裏がジンジンし、砂利を踏んでいるような感覚や、足の裏に薄皮が1枚張っているような感覚が生じます。
自律神経障害の症状は、下痢、便秘、胃のもたれ、失禁、尿のきれの異常、発汗異常、起立時のふらつき、低血糖時に自覚症状がないなどさまざまです。
知覚鈍麻(刺激を感じにくくなる)の症状には特に注意が必要です。
一方、単神経障害では、突然に単一神経麻痺が外眼筋麻痺(物が二重に見える場合が多い、動眼神経・滑車神経・外転神経の障害)および顔面神経麻痺が多く、糖尿病の罹病年数や血糖コントロールの良し悪しとは無関係に発症します。
また、95%以上が3ヵ月に自然に治まります。 これは慢性合併症の中で1番多く、最も早く現れやすいものです。 症状が進むと痛みを感じなくなるため、足の傷や火傷に気付かず、感染症が重症化するリスクも高まります。
網膜症は目の中の血管が傷ついて視力が低下したり、初期は無症状ですが、進行すると出血や網膜剥離が起き、失明の原因になることがあります。
緑内障などに並び、成人の中途失明原因の主要な上位を占める深刻な合併症です。
自覚症状がないまま進行していることもあるので眼底検査などで早期発見に努めましょう。
初期の糖尿病網膜症で、最初に出現する異常は、細い血管の壁が盛り上がってできる血管瘤 (毛細血管瘤)や、小さな出血(点状・斑状出血) です。
蛋白質や脂肪が血管から漏れ出て網膜に溜まってきます (硬性白斑)。
これらは血糖値のコントロールが良くなれば改善することもあります。 この時期には自覚症状はほとんどありません。
詳しい網膜の状態を調べるため眼底の血管造影(蛍光眼底造影検査)を行うこともあります。
さらに進行すると細い網膜血管が広い範囲で閉塞し、網膜に十分な酸素が行き渡らなくなり、足りなくなった酸素を供給するために新しい血管(新生血管) を作り出す準備を始めます。
この時期になるとかすみなどの症状を自覚することが多いのですが、全く自覚症状がないこともあります。 前増殖糖尿病網膜症では、多くの場合、網膜光凝固術を行う必要があります。
新生血管が網膜や硝子体に向かって伸びてきます。
もう一段階進むと新生血管の壁が破れ、硝子体に出血することがあります。 硝子体は眼球の中の大部分を占める透明な組織です。
ここに出血が起こると、視野に黒い影やゴミの様なものが見える飛蚊症と呼ばれる症状を自覚したり、出血量が多いと急な視力低下を自覚したりします。
また、増殖組織といわれる線維性の膜が出現し、これが網膜を引っ張って網膜剥離 (牽引性網膜剥離)を起こすことがあります。
この段階の治療には、手術を必要とすることが多くなります。 この時期になると血糖の状態にかかわらず、網膜症は進行していきます。 特に年齢が若いほど進行は早く、注意が必要です。
腎症は、高血糖が長く続くことで腎臓の細い血管が傷み、老廃物をうまくろ過できなくなる病気で、悪化すると人工透析が必要になります。
初期症状はなく、進行すると足や顔のむくみ、尿の泡立ちや貧血の症状があらわれます。
三大合併症以外にも、心筋梗塞・狭心症、脳梗塞・脳出血、歯周病、足壊疽、閉塞性動脈硬化症などもあります。
いずれの合併症も血糖値が高い状態が続くと発症の可能性が高くなるため、食事のバランスに気をつける、適度に体を動かす、タバコをやめる、そして病院での治療や検査を続けることで血管や神経の傷みを防ぎ、普段からの血糖値のコントロールが大切です。
山田医院 医療事務 亀川 莉々彩
『養生訓』に学ぶ健康長寿の秘訣
猛暑や自然災害など、健康を取り巻く環境は厳しさを増しています。 しかし「いつまでも元気でいたい」という願いは、今も昔も変わりません。
今回は、江戸時代の儒学者・貝原益軒 (かいばら えきけん)が亡くなる前年 (83歳) に執筆した『養生訓』を通して、健康長寿の秘訣を探ります。
『養生訓』は、当時としては大ベストセラーとなりました。 それほどまでに江戸時代の人々も健康への関心が高かったことがうかがえます。
貝原益軒は、幼少期から虚弱体質で病気がちでした。 彼の日記には、「6月3日下痢が数日治らず、腹が鳴りっぱなしだ」 「6月7日梅雨の湿気で痛みが治らない」 「7月7日病気の為、まだ仕事に出られない」 「8月26日体がのぼせ、頭がくらむ」といった、健康への苦悩が記されています。
この苦しい闘病経験が『養生訓』の原点です。 益軒は漢方医学を学び、自らの薬の調合も行いました。
体に良いとされる健康法を自ら実践し、その効果を細かく記録し続けました。 その成果をまとめたものが『養生訓』です。
また、益軒を支えたのが20歳年下の妻・貝原東軒 (とうけん)です。 歌人であり女流作家だった彼女もまた虚弱体質で、幾度も生死の境をさまよいました。
そんな二人は二人三脚で、研究、執筆、出版に取り組みました。
『養生訓』の一節には、現代に通じる知恵が詰まっています。
「外からの悪影響 (暑さ寒さ)を防ぐ事が大切である」
「食欲は腹8分目、睡眠欲は寝すぎない事が良い。」
「過度なお喋りも慎み、穏やかな心で過ごすのが良い」などが説かれています。
夫婦で一緒に体重測定を行ったエピソードも残っており、生活習慣を整えることの重要性は、時代を超えて普遍的であると言えます。
益軒が83歳という当時としては驚異的な長寿を全うできたのは、病弱な妻をいたわり「自分が先に死ぬわけにはいかない」という強い使命感が、健康に留意し続けた結果と言われています。
東軒が62歳で亡くなったわずか8か月後、益軒は後を追うようにこの世を去りました。 執筆と介護を平行並行しながらの晩年であったことが推察されます。
『養生訓』の冒頭文には、このような言葉があります。
「人間の体は父と母から授かったもの 養われたものだ。自分一人のものと勘違いして粗末にしてはならない。父と母が残してくださった身体なのだから、いたわって、長生きを心がけるべきである。」
この言葉は、私たち現代人に「自分の健康は、自分だけの問題ではない」と語りかけているようです。
病になってから治すのではなく、病気になりにくい生活を心がけることが、何よりの養生です。
身近な人の為に健康でいる事、そして自分自身を大切にすること。
約300年前に書かれた『養生訓』は、令和を生きる私たちの健康観をアップデートしてくれるはずです。 ぜひ今一度、自身の健康とじっくり向い合ってみてはいかがでしょうか。
山田医院看護師 石田知子
「蚊」アレルギーについて
蚊に刺された後の反応は子どもによって本当に様々です。
少し赤くなる程度で済む子もいれば、5cmを超える大きな硬結を作る子もいます。
中には蜂窩織炎と見間違うような腫れや中心に水疱を作る子もいます。
こうした強い反応の背景には1型 (IgE依存性) とIV型 (細胞性免疫)の両方の機序がかかわっていることが分かってきました。
蚊の唾液には複数の免疫調節成分が含まれており刺された直後の即時型反応と24-36時間後の遅延型反応の両方を起こします。
ところが診断は意外と難しいままです。
一般的な蚊特異的IgE検査は手軽に測れますがその陽性結果が臨床症状とどの程度一致するのか議論が続いているようです。
2026年にトルコのイスタンプールにある施設からの発表では
①蚊特異的IgE陽性率は症状の強い群と弱い群ではほとんど差がなかった。
②気管支喘息あるいは慢性蕁麻疹などのアレルギー疾患を合併は蚊アレルギー群で多かった。
③皮疹のパターンは即時型反応と遅延型反応は同じ子供に併存していることが多かった。
④反応は20分以内に出て1週間以内に治ることが多かった。
⑤野外活動を避ける、睡眠障害などにより日常生活の質が低下することも多かった。
以上のことが分かりました。
これらのことをまとめてみると蚊のアレルギーかどうかについて血液検査をすることの意味については: 皮疹が強いからと言って蚊のアレルギー検査は皮疹が強く出ない子どもと同じ程度の陽性率である。
気管支喘息あるいは慢性蕁麻疹などのアレルギー疾患がある人は強い蚊刺反応が出ることが多いので検査をする意味は少なく蚊に刺されることを少なくする予防が大切、もし刺されたときにはできるだけ早く処置を行う(ステロイド剤の塗布など)ことが大切です。
今回はチャイルドヘルス令和8年8月号から抜粋をしました。
山田医院 医師 山田良宏


