第26巻 第2号(第301号)
宇宙医学について
今回は、月刊保団連令和7年1月号からJAXA元主任医長関口千春医師が記載した宇宙医学についてのお話が面白かったので取り上げることにしました。
宇宙医学とは宇宙環境下での生体への影響を究明するのが第1で、それに伴う宇宙飛行士の健康管理をするのが第2の目的とするものとされています。
最先端は米国で発展途上の学問です。宇宙環境と地球上の違いから見ていきましょう。
まず気圧についてです。地表から上昇するにつれて大気圧は減少(空気が薄くなる)します。
富士山頂上では気圧は地表の63%となり酸素も同時に減るために人間が生きていくための最小限の酸素となります。
地上から高度100km以上を宇宙とよびます。宇宙ステーションは高度250-450kmであり、この環境はほぼ真空状態と言ってもよい状態です。
このような真空状態に人間が直接暴露されると、体液は沸騰して数秒から10数秒で意識は消失して死に至ります。
そのために宇宙ステーションでは船内に地上と同じ1気圧の空気を満たしています。ただし宇宙空間に出るときには宇宙服に身を包む必要があります。
地上と同じ1気圧の空気で満たしていればいいのですが、外は真空、中が1気圧となると宇宙服は風船のようにパンパンになるので現在は宇宙服の内圧は0.3気圧にしています。
空気の0.3気圧では酸素が少なくなるので純酸素で満たしているようです。
それでも関節、特に上肢の動きには努力が必要となります。手を動かすには大変な労力が必要でとても疲れるようです。
加速度については打ち上げ時は胸部から背部へ3Gが8分半、帰還時は頭部から臀部に1.5G程度が20分ほどかかるようですが、通常の人間なら十分に耐えうる加速度のようです。
重力については地上の10のマイナス6乗ほどの極々わずかな重力であるためにほぼ無重力状態です。
この無重力状態では筋肉が萎縮します。主として長距離走行や姿勢保持に必要な筋肉が萎縮します。
1-2週間の宇宙飛行で15%程度低下してその回復には4か月ほど必要になります。
同時に骨量、特に荷重負荷である足のかかとの骨、大腿骨、脊柱などは影響を受けやすくなっています。
このために飛行中に1日1-2時間程度は有酸素運動(歩行器あるいは自転車を使用した運動)、無酸素運動(筋肉トレーニング)を行い宇宙から帰還後も数か月はリハビリテーションを行います。なお骨粗鬆症予防としてビタミンDやビスフォスフォネート製剤を服用します。
循環器系への影響としては重力がないために地上では下半身に多く分布していた体液が上半身や頭部にも分布するようなります。
宇宙に到達した後は顔がむくんだ状態になるのはこのためです。これは数日して順応します。ただし帰還時には体液が下半身に移動するために起立耐性が低下してしまうためにうまく歩行ができない、失神することが起こります。
かなり以前は帰還時に支えらえて移動する飛行士を見受けましたが最近では筋肉萎縮、骨粗鬆症予防のトレーニングが有効であることが分かってきました。
また帰還時には耐G服を着用するようになりました。温度については真空であるために直接太陽光を受けることになり陽の当たるところでは約100°Cにもなり、反対に陽の当たらないところでは-110°Cになります。
宇宙服では水冷の下着をつけて体温を調節、手袋には温熱ヒーターをつけて対応をしています。
また宇宙環境は放射線環境で銀河宇宙線、磁場補足放射線、太陽放射線にさらされている状態です。
1日に0.1-1.0mSvの放射線を被ばくしていることになり半年から1年の滞在では日本人の職業年間被爆限度の50mSvを大幅に超えることになります。
宇宙飛行士の年齢、性別、滞在期間などにより線量当量限度を定めておりそのリスクについて説明をして同意を得たうえで宇宙飛行に参加となるようです。
宇宙ステーションは60-80m3のモジュールが5-8つで構成されていますが、危険性の高い閉鎖空間に6か月から1年間と長期滞在することになります。
人間が閉鎖環境で拘束されプライバシーが保たれない環境に2か月さらされるとほとんどの人は不眠、頭痛、妄想、幻覚などから作業能力の低下、判断力の欠如をきたすことが分かっています。
特に国際クルーではアメリカだけではなくロシア、ヨーロッパ、日本、カナダと全く文化背景を持つ宇宙飛行士が共同生活をするために問題が生じる可能性も高くなっています。
このために飛行前には専門家による精神心理評価を実施して飛行に問題がないか評価してまた飛行中にも2週間に1回のテレビ回線による心理カンファレンスもされています。
その他に宇宙酔い、飛行中の食生活、健康管理などの問題もあるようです。この分野は環境医学、生理学だけではなく精神医学、食事運動療法など多くの問題が絡み合っていて研究分野としてはとても奥深いと感じました。
山田医院 医師 山田良宏
涙のお話
嬉し涙と悔し涙は味が違います。
泣くことは、人の体にとってどんな役割があるのでしょうか。卒業、転勤、引っ越し。春はなにかと別れの多い季節。
そこで今回は、別れにつきものの「涙」のお話です。
ひと口に涙といっても、嬉し涙、悔し涙、悲しみの涙など、人はさまざまな涙を流しますよね。
この涙、それぞれ味に違いがあることをご存じですか。秘密は自律神経の働きにあります。
例えば、副交感神経に刺激されてあふれる嬉し涙は、水分が多くマイルドな味に。
また交感神経の刺激による怒りや悔しさの涙は、ナトリウムを多く含んで辛口になるというしくみ。
人の涙とは、なかなか奥が深そうですね。
ところで、悲しいときや悔しいときに涙を流してすっきりした、という経験はありませんか。実は近年、涙の中に「ロイシン−エンケファリン」という物質が検出されたのです。これはからだの中で痛みやストレスを緩和してくれる脳内モルヒネ様物質の一つ。
涙には、これらの刺激を和らげて洗い流す力があるのかもしれませんね。逆に考えると、泣きたい感情を抑えることで無意識にストレスをためている可能性も。
厳しい社会の中ぐっと涙をこらえた日は、お酒でストレス解消もいいですが、時には映画や小説などで思いきり泣いてみるのはいかがですか。
流した涙 は、きっとあたらしい春を届けてくれることでしょう。
(参照:健康常備学)
山田医院 医療事務 藤森あゆみ
ステロイド治療薬
みなさんは『ステロイド』にはどういうイメージを持っていますか?
怖い薬・強い薬とあまりいいイメージを持っていない方もいらっしゃると思います。
確かに全身に対して長期間使用するなど、副作用に注意しないといけませんが、内服薬・注射薬・吸入薬・塗り薬・坐薬など幅広く、様々な疾患の治療に使われています。
ステロイドとは、もともと人の体内の副腎という臓器で作られる副腎皮質ホルモンの一つです。
これを人工的に合成した薬がステロイド剤で体内のホルモンと同様に、炎症、免疫、アレルギーを抑える働きがあります。
中でもよく使われる外用薬は局所の湿疹、皮膚炎、かゆみ、じんましんなどに使われます。
ステロイドの作用として、
1抗炎症作用
細胞の中で炎症を起こす物質を作らせないように働き、炎症そのものを抑える。
2細胞増殖抑制作用
炎症反応を引き起こす細胞の数が増えないようにする。
3血管収縮作用
炎症部位の引き締めることによる患部の赤みをしずめる。
4免疫抑制作用
体内で抗体が作られにくくし、炎症を引き起こす免疫系の働きを弱める。
ステロイドには弱いものから強いものまでランクがありますが、体の部位によって薬が吸収されやすい部位(顔や陰部)と吸収されにくい部位(足の裏や手のひらなど)があるので、部位や症状にあったランクのステロイドを使うことが大切です。
1回の薬の量の目安として1FTU(約0.5g)大人の手の2枚分の面積です。
すりこまずにたっぷりのせるように塗ることが大切です。量が多すぎたり、少なすぎたり、自己判断でやめたりせず、医師の指示のもと使用するようにしましょう。
また、外用薬には軟こう、クリーム、ローションといったタイプがあります。
軟膏
水に溶けにくく、皮膚の保湿・保護作用が高くもっとも頻繁に使用されています。刺激が弱く肌の弱い人にも使えるうえ、湿った患部から乾燥した患部まで様々な状態の幹部に使用でき
ます。
クリーム
伸びがよく、べたつきにくく水で洗い流しやすいという特徴があります。ジュクジュクしている、傷がある部分には適しませんが、乾燥した患部、軟膏のべたつきをさけたい場合に適しています。
ローション
液体に薬を混ぜたもので、塗った後に水分が蒸発して表皮に残る薬剤の効果が期待されます。若干の刺激性があるため湿ってジュクジュクしている、傷がある患部には適していないが軟膏やクリームが塗りにくい有毛部などへの使用に適しています。
それぞれの特徴を参考に選ぶことができます。ステロイド外用では副作用の頻度は少ないと言われています。
もちろんゼロではありませんが、適切に使用すればメリットの方が大きい薬といえるのではないでしょうか。
山田医院 看護師 三栖佳子
しあわせホルモン“セロトニン”を増やそう!
“セロトニン”という言葉を聞いたことがありますか?通称“しあわせホルモン”と呼ばれています。
日光を浴びると私たちの脳内ではセロトニンという神経伝達物質が分泌されます。セロトニンは精神の安定や安心感や平常心、頭の回転をよくして直感力を上げるなど、脳を活発に働かせる鍵となる脳内物質です。
特に、ストレスに対して効能があり、自らの体内で自然に生成されるもので、精神安定剤とよく似た分子構造をしています。
また、男性は女性に比べて、脳内セロトニンを生成する能力が高く、セロトニン分泌は女性ホルモンとも連動しています。
セロトニンが不足すると、慢性的ストレスや疲労、イライラ感、向上心の低下、仕事への意欲低下、協調性の欠如、うつ、不眠といった症状が見られます。
そのため、日照時間が短くなると、日光を浴びる時間が減り、セロトニンの分泌が低下することが考えられます。
日光を浴びるタイミングとしては起床直後から30分までが重要です。
セロトニンは無限に増えるわけではないので、1日15〜30分ほど日光を浴びることを意識すると良いでしょう。
さらにうつ病には脳のセロトニンが欠乏することが一因だと考えられており、実際にセロトニンを増やす抗うつ剤が効果を示します。
日光浴だけでなく、さまざまな方法で、分泌を促すことができます。適度な運動、感情を動かすこと、睡眠などです。
一つに、リズミカルな運動によって活性化される特徴があります。
最も基本的なリズム運動としては、歩行運動、食事の際の咀嚼、意識的な呼吸などがあります。
一定のリズムを刻む運動を反復して行うと、セロトニン神経を刺激して、覚醒状態を高める効果があります。さらに、人との触れ合いもセロトニンを増やすには効果的です。
食事もセロトニンの分泌に大きく影響しています。その栄養素はトリプトファンという必須アミノ酸の一種です。
人間の体内では生成できないため、食事から摂る必要があります。トリプトファンが含まれる食品としてはカツオやマグロ、牛乳やチーズなどの乳製品、納豆や豆腐などの大豆製品、ナッツ類やバナナがあります。
また、ビタミンB6、マグネシウム、ナイアシンを含む食品もセロトニン生成に関わります。
ただし、心身の健康にはバランスの良い食事が基本となります。これらの栄養素だけに偏ることなく、さまざまな栄養素を万遍なく摂取することが大切です。
また、セロトニンというと脳に関係する物質だと考える方が多いですが、実は、セロトニンの大部分は消化管に存在しています。腸は「第2の脳」とも言われ、精神状態と大きな関係があるのです。
腸の働きは自律神経によってコントロールされており、忙しくストレスの多い現代社会では、自律神経の働きが乱れやすくなっています。
腸管免疫は体の最大の免疫器官で体内のセロトニンの90%が消化管にあります。
脳と腸は神経で繋がっているので腸内環境や腸の疲労状態を改善することが、幸福感の感じ方に大きく関係しています。
食生活が不摂生の方はこれを機会に改善してみてはいかがでしょうか?
山田医院 医療事務 東川敏美
在宅医療について
在宅医療は医師を含めた医療関係者が自宅あるいはホームなどの患者さんの住居に訪問をして行う医療全般についてです。
医療に関しては突然の状態悪化例えば発熱、痛み等で通院ができないときに医師に来てもらう「往診」と、状態に大きな変化はないものの通院ができないために医師に定期的に来てもらい診察を受ける「訪問診療」があります。
在宅医療において患者さんの状態が悪化すれば医療関係者の連携が必要になりますが、中心は看護師であり、ケアマネ、ヘルパー、薬剤師、理学療法士、など協力して医療を行うことになります。
最近は在宅医療専門の医療機関も増えてきましたが、在宅医療は外来医療の継続、医療の一環としての在宅医療と考えている当院でも積極的に在宅医療を行っています。
将来について悩むことも多いと思いますが、不安等があれば診察時に医師あるいは看護師、事務スタッフに相談を遠慮なくしてください。
山田医院 医師 山田良宏
指しゃぶりとおしゃぶりについて
子どもの指しゃぶりは多くの保護者にとって悩みの種となります。
またおしゃぶりは種類も多く市販されているために、抵抗なく使用させている保護者も多いと思います。
今回はチャイルドヘルス令和7年2月号から指しゃぶりとおしゃぶりについて抜粋をしました。
指しゃぶりをしている子どもの多くは咬み合わせた時に前歯の上と下が接触しない「開咬」という状態となります。
指しゃぶりは3歳ころまでは生理的ものであり、3歳ころまでは無理に止めさせる必要はないとされています。
3歳を過ぎてから徐々に止めさせるようにしますが、この時も叱ったりせずに子どもの自尊心をくすぐりながら優しくたしなめることが勧められています。
寝付く前だけになれば卒業の日は近くなります。
指しゃぶりをやめることができれば「開咬」は自然に改善します。おしゃぶりは鼻での呼吸を促進するために積極的に使用を勧めてきたことがありますが、学問的には検証されていません。おしゃぶりを使用することでスムーズに入眠したり、ぐずっているときに機嫌がよくなるという面はありますが、使用期間が長くなると開咬など歯並び、噛み合わせへの影響が大きくなるのでできれば2歳ころまでには卒業することが望ましいと言われています。
以前は乳幼児突然症候群の予防にもなると言われていましたが、最近は根拠がない事が分かりほとんど言われなくなりました。
おしゃぶりと指しゃぶりを卒業するのは大変ですが無理に止めるのではなく子どもに諭してゆっくりと止めることが大切です。
山田医院 医師 山田良宏


