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新しい腰痛の概念について 腰痛は国民の愁訴としては最も多い病態であり人が一生のうちでは少なくとも一度は経験する病態です。高齢者で多く、特に女性の場合には加齢とともにその頻度は増加しています。腰痛は従来は「脊椎の障害」として捉えられており、画像診断を代表とする「形態学的異常」(画像に写る正常と異なる形の異常)の検索が重要な役割をしていましたが、最近では腰痛は「生物・心理・社会疼痛症候群」(画像に写る正常と異なる形の異常+仕事上の問題、抑うつ気分などの心理的あるいは社会的な問題点)という概念で捉えようとする動きがあります。同じ関節であっても膝関節等については「形態学的異常」(骨あるいは関節の形の異常)だけが問題となり心理的・社会的な点は大きな問題とはなりません。全く腰部痛がない人の腰の検査をしてみると30%ほどの人に椎間板ヘルニアを認めることが分かりました。なお、全く腰部の痛みがない人の椎間板ヘルニアと痛みが強くて手術を受ける人の椎間板ヘルニアの画像(MRI)を見てどちらが手術を必要としている人か判断する事は専門家においても不可能である事が分かっています。少なくとも画像のみでは痛みが分からないということが実情です。腰痛研究によると社会的背景としては家族、社会の支援(支援があるほうが治療効果は高い)、社会階級(技術がない重労働者の失業者に腰痛が多い)、雇用管理(良好な雇用管理により腰痛の頻度と休業が減少する)など多種多様な社会、心理学的側面が腰痛に大きくかかわっている事が分かっています。もちろん、ストレス等も腰痛には大きくかかわっており最近では腰痛の手術については心理的側面に対する対応も考慮してから行うようになりつつあります。では、すべての腰痛がこのような心理・社会的側面が大きな問題であるわけではなく重篤な脊椎病変の存在(redflags)があり、医師はこのredflagsがある場合にはこれに対する治療を中心に行います。重篤な脊椎病変とは外傷(骨折)、50歳以上の発症、癌の既往、発熱、体重減少、膀胱直腸障害、下肢の麻痺、しびれなどがあります。これらのredflagsは癌の脊椎転移あるいは脊椎の感染(化膿性脊椎炎)、骨折(骨粗鬆症あるいは外傷、変形性脊椎症)などを中心とした疾患です。特に50歳以上で発症した場合は常に癌の転移を考慮します。末期癌になると高率に脊椎への転移を認めますが、逆に脊椎への転移で癌が発見される場合があります。脊椎転移を起こすものは乳癌、肺癌、前立腺癌が多くついで腎臓癌、甲状腺癌、消化器系癌です。局所の強い疼痛があり、体動時のみではなく安静時の痛みが特徴的です。また脊柱管への転移により神経麻痺症状が出る事もあります。痛み自体に対してはモルヒネ等の麻薬製剤を使用しますが治療としては放射線療法、化学療法、ホルモン療法が中心ですが生命予後が半年以上では手術も考慮されます。当院においても悪性腫瘍末期の方を在宅で診る事がありますが、脊椎を中心とした骨転移は多く体動に伴う骨折への注意、痛みに対する治療等なかなか大変ですが、最近では介護ベッドの普及あるいは高容量モルヒネの使用、その他消炎鎮痛剤との併用にてコントロールも比較的可能となってきました。なお、重篤な脊椎病変の存在(redflags)がない腰痛の場合には90%は4週間以内に自然回復し、約10%の方は1年後も1部の症状が持続するものの通常の活動は維持できるといわれています。以前は安静に保つ事を指導されておりましたが最近は安静の有効性は疑問視されており徐々に日常生活に戻る方が良いといわれています。(4日以上の安静は急性腰痛の治療に効果がないといわれています。)なお、運動療法は急性期の腰痛に対する有用性を証明する事は出来ないようですが、活動性を維持するためには有効であり、また筋萎縮の予防にも大切であると言われています。なお、慢性腰痛にたいしての温熱、マッサージ、牽引などの理学療法はガイドライン上は推奨されていませんが、心理的な治療側面があり実際日常診療においては広く行われていると思います。腰部痛は単なる骨の異常ではなく心理的な問題点が存在している可能性がある一方では悪性腫瘍などの重篤な疾患も隠れている可能性があり、日常においては注意が必要です。 山田医院 医師 山田 良宏
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